別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
次の瞬間、スッと胸元から出された写真。撮られた場所は病院の個室だろうか。そこには若かりし頃の白衣姿の父と、ベッドの上で柔らかく微笑む女性が映っていた。

記憶の中にあったフラワーケーキを作ってくれた女性にそっくりだった。きっとこの人は渚さんのお母さんだ。そしてその女性の両隣には、中学生くらいの男の子と小さな女の子が映っていた。

これは渚さんと莉奈さんだろうか。渚さんのお父さんから思わぬ形でお母さんの病気の話を聞き、段々と点と点が繋がっていく。

その度に私の中に広がっていく驚きと戸惑い、そして悲しみの感情の渦。それらが行く着く先はきっといいものではないのだと直感が働く。

「だが、あの日妻の容態が急変してね。すぐにナースコールで佐倉先生を呼んでもらおうとした。でもその日いるはずの佐倉先生がいなくて、結局違う先生が処置にあたってくれたが、妻の意識は戻ることはなくそのまま息を引き取った」

向けられた悲しげな瞳に心がズキンと痛む。

「その現実を受け入れることができずに苦しみながらも妻は充分に頑張ったのだと、寿命がきて天に召されたんだと言い聞かせ続け自分自身を納得させようとしていた矢先、佐倉先生があの日いなかった理由を偶然知ってしまったんだ」

「偶然、知ってしまった?」

「……あの日、君が高熱を出し佐倉先生がそれを心配して一時帰宅したのだと、ナースたちが話しているのを聞いてしまったんだ」

「そ、んな……」

息をするのも忘れてしまいそうなくらいの衝撃が走り、思わず言葉を失った。
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