別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
私は実家へと戻り、大好きだった仕事もお腹が目立つ前に辞めることにして岬オーナーにその旨を伝えた。いきなりのことに岬オーナーは驚き引き留めてくれたけれど、妊娠のことは岬オーナーには言うことはできなくて、大好きだったパティシエールの仕事から離れた。

そのことに後悔がないと言えば嘘になるが、今の状況を考えるとこの選択しか私には残されていないだろう。

それから私の生活はガラリと一変した。体調を見ながら父の病院で受付員として働き、周りの人に助けられながら月日を過ごし、そして八月中旬、無事に男の子を出産した。

我が子を胸に抱き、母親になった喜びと、周りの支えてくれた方への感謝の気持ちが込み上げてきて涙が止まることはなかった。

ひとりで育てると決意したものの、周りの人の助けがなければ私はこうやって万全の状態でこの日を迎えることはできなかっただろう。

頭には愛おしい人の顔が浮かぶ。あの日から忘れたことはない。薄れることのないその記憶。もう二度と彼と会うことができないとしても、私は彼の幸せを心から願っている。

そして彼がくれた唯一の希望。私はこの子と共に歩んでいく。
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