別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
「この三年ずっと凛子のことが忘れられなかったが、凛子が幸せならそれでいいと言い聞かせてきた。それでも自分の気持ちに嘘はつけなくて、父が勧めようとする見合い話を拒否し続け、父と衝突を繰り返してきた」

「……そうだったんですか」

てっきり見合い相手と幸せな家庭を築いているものだと思っていた。だけど彼は彼で苦しんでいたのだ。

「ここ一年はほぼ実家にも顔を出さず父と口も効かない状態だったが、あの日妹に話があると実家に呼び出され、凛子と子供の話を聞いた。すぐにでも凛子に会いに行きたいと思い、部屋を出ようとしたとき、秘書の七瀬さんがいてね」

その名前には聞き覚えがあった。あの冬の日、私に声をかけてきた渚さんのお父さんの秘書だ。忘れるはずがない。あの日のやり取りが鮮明に蘇ってきて胸が疼いた。

「〝とうとう知ってしまったんですね〟そう言って、彼は僕にすべてを話してくれたよ。真実を知って愕然とした。そして、なにも知らずに生きてきた自分自身に腹が立った」

その話から推測すれば、七瀬さんは湊斗の存在を知っていたことになる。ということは、渚さんのお父さんも知っていたということなのだろうか。
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