蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



東美の外出初日の金曜日の今日
幸運なことに東白は臨時休校だった


お昼までNightの倉庫で時間を潰した俺と永遠は

駅前へ歩いて向かうことにした

永遠は一ノ組が所有する駅北のマンションで婚約者と暮らしていて

そこへ住むようになってからNightの倉庫がある駅南の外れまで
一キロちょっとの距離を歩いて来るようになった


「大和、ウゼェな」


二人で歩き始めるとすぐ、女達にゾロゾロと囲まれてしまった

手は出さないけれど容赦のない永遠は
あからさまに不機嫌さを態度に表した


既にNightを引退したことは周知の事実

聡太達に代替わりしたと通知を出した時点から

歴代同様、俺たちを囲むことも近づくことも許されない

それなのに・・・何故だ

いつもより遠巻きに囲まれたまま歩くと
大名行列のようで歩行者の邪魔になっている


「チッ」


ポケットの中から携帯を取り出して聡太へと繋げる


(聡太です)

「駅に向かってるんだが囲まれてる
歩行者の邪魔になってるから
散らしに来てくれねぇか?」

(了解です)


ウザい集団は新総長の聡太に任せることにした

タブレットを確認すると駅裏には既に東美のバスが到着しているのが映った


「永遠」


俺の焦りが分かったのか


「チッ、ウゼェ、退けっ」


永遠が分かりやすく周りを牽制する

追いついてきた聡太達も苦戦していて

結局、散らせないまま駅に着いてしまった


視線の先の駅ビルの中に
チラホラ東美の制服が見える

その一番後ろに花を持った蓮が見えた


「チッ」


人集りを抜けようと一歩足を動かせば
その人集りごと動いてしまった


「キャーーーーーーー」



ドドドと足音が不規則に聞こえる中
悲鳴を上げた蓮の声が胸に刺さった

どんなに離れていたって忘れることのない蓮の声に引き寄せられるように足を進める


「退けっ」


人を掻き分けると柱にもたれるように倒れている蓮を見つけた


「蓮っ」


蓮の伸ばしている手の先には
抱えていたはずの百合の花が無惨に踏み潰されている


「テメェら、失せろ」


ありったけの声を張り上げた





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