蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



暫くするとニヤリと笑った橘院長が扉から顔を出して
「ほら」と扉を大きく開いた


「恩人の登場な」


橘院長は扉の脇に立って俺を顎で動かした

覚悟を決めて病室の入り口に立てば

ベッドの上で上半身を起こした蓮が
大きな目を更に大きく開いて固まってしまった

・・・綺麗だ

六年前よりずっと


「・・・」


声をかけるより蓮に引き込まれているうちに


「嬢ちゃんが倒れた駅前から
此処まで運んでくれたのは彼だ
意識が戻らない内に済ませた検査も
ずっと彼が嬢ちゃんを抱えて運んでくれた
何か事情があるかどうかは知らないが
命の恩人であることには変わりない」


橘院長が助け舟を出してくれた

それに漸く反応した蓮は


「あ、ありがとうございました」


ゆっくりと頭を下げた


「いや・・・礼には及びません」


咄嗟に出た可愛げのない返事


「なんだ〜お前ら、やけに他人行儀じゃねえか?
あ、あれか?喧嘩中か?
若いもんは色々忙しくていかんな
もう大丈夫だ、帰って良いぞ
嬢ちゃんは、気になることがあれば
またおいで」


またも橘院長は面白そうに笑って
看護師長を連れて出て行った


やっと二人きりになれた
そう思ったのは俺だけだったようで

蓮はベッドからおりると帰る支度を始めた


帽子を被って鞄を持って
入り口に立っている俺へと近づくと
一度立ち止まって深く頭を下げた




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