無名ファイル1
「席につけ!これから始業式だ。
今学期も気を引き締めていけよ!」
HRが始まった。私が席につくと、
隣にはうつらうつらとしている蛍の姿。
私に気づくと小さく手を振ってくれた。
眠そうな目に甘えん坊の彼を思い出し、
微笑ましくなってそっと振り返した。
「おはよう、眠そうだねぇ~」
HRが終わり、廊下を歩いていると、
大きな欠伸をする蛍が視界に入った。
「ん、昨日も寝るの遅かったから。
台本読み込んでたんだ、文化祭の。」
…そうだ、蛍は文化祭だけじゃない。
やっぱり…忙しかったんだ。
我儘なんて言わなくて正解だったな。
「そっか…台詞合わせ楽しみだね!!
始業式終わったら二人でしようよ!」
「あぁ、お手並み拝見といこうか。」
眠そうだった視線がギラリと光った。
皆さん…彼は…夏夜蛍は本気です。
最高の劇が出来上がる予感です!!
「望むところですぞ!!」
あぁ、楽しい…蛍と時を過ごすのは、
こんなにも楽しい…幸せだ。
体育館の入り口に差し掛かった時、
男性とすれ違った…あ、香水。
彼からふわっと上品に香った。
記憶の中の香りが鮮明に蘇る…。