無名ファイル1
「急に立ち止まってどうした?」
「…え?」
止まっていた時が動き出す感覚。
ぼーっと男性の背中を目で追っていた。
「なんでもない、人違いだった…」
手のひらがじんわりと汗ばんでる…。
私は拳を握りしめて微笑んだ。
「ふぅん?」
蛍はただ相槌を打って歩き出す。
嘘つきでごめん…。
「これから始業式を始めます。」
生徒が整列している静かな体育館。
校長の話も生徒指導部の先生の声も、
心臓の音が掻き消してしまう…。
「ここで新しい音楽の先生に、
挨拶をしていただきます。」
あぁ、嘘だ…幻だ…勘違いであれ。
逃げ出してしまいたかった…。
無情にも舞台上の人物と目が合う。
それはもう…言い訳できない程。
しっかり視線が絡んだのだ。
相手は私を見つけると穏やかに笑った。
「野苺学園の皆さん、こんにちは。
アルフィー・サド…と申します、
どうぞ、宜しくお願い致します。」
知ってる…嫌ってほど知ってる。
艶やかな金髪のボブヘアー。
窓から差し込む光に照らされ、
キラキラ輝いている…まるで王子様。
あぁ、周りの女の子の目がハートに…。
「ちっ…」