無名ファイル1
『ガチャッ』
「はぁっ…」
リビングのソファーに身を投げる。
体が柔らかな上質な革に沈んでゆく。
「気持ち…か、返事どうしよ…」
私はなんて失礼な人間なんだろう。
彼女の気持ちに全く気付かなかった。
いや、気がつかないようにしてた…。
「最低だ…私」
エミリアの優しさに甘えてたんだ。
友達という肩書きに安心してたんだ…。
カーテンの閉まった薄暗い部屋の中、
手の中の箱から時を刻む音がする…。
「わぁ…有名ブランドの時計だ」
彼女の気持ちとして渡された箱。
”時を共に刻みたい”友達ではなく、
恋人として…ということだろう。
目の前のローテーブルに視線を移すと、
簪とネックレスがこれ見よがしに並ぶ。
「だから蛍を邪険に扱ってたのか…。
てか、誰よ!ここに簪を置いたのは!!
いや、いーや、私しかいないけどさ!
分かってる…こんなんじゃ…うぅ…っ」
私はしばらく大声で泣いた…。
癇癪を起した小さな子供みたいに。
『ピンポーン!!』
「ひ”ぅっ!?」
え…だっ、誰…??
私は涙を拭って玄関へ走った。
『…ガチャッ』
「どちら様ですか…?」