無名ファイル1
「まさか君の方から密会のお誘いを、
受ける日がくるとねぇ…嬉しいよ。」
密室の音楽準備室…嫌な記憶が蘇る。
冷房の効いていない湿度の高い密室…。
「そういうのいいんで。取り敢えず、
この間のやりとり、録音してます。
二度と私情で話しかけないでください。
それだけです、さようならセンセイ。」
「はぁ…君には期待してたんだけどね。
どうやらハズレだったみたいだ…。
永遠のお人形だと思っていたのにな。」
サドはゆっくりとこちらに近づく。
貼り付けた笑みと私の首に向く視線。
ただのひ弱なピアニストなんかに、
二度も首を取られてなるものか。
「僕の為に歌えない声は必要な…!?」
伸ばしてきた腕を背中に捻り上げる。
サドの肩関節がギチギチと音をたてた。
「う”ぁっ!?や、やめっ…!!」
「今年の夏休み格闘技練習してたの。」
指導をつけてくれたのは勿論百合ネェ。
私…凄くセンスあるって。
「ねぇ、二度と手が動かなくなっても、
文句言えないよね?…どうする??」
「すみまッ…すみ…ませんッ!!」
腕を開放するとヨロヨロ蛇行しながら、
部屋を飛び出していった…。