無名ファイル1
「雑誌の撮影とバラエティーの収録、
それからボイトレの予定です。」
「あの、私一般人ですし…そんなに、
丁重に扱って頂かなくて大丈夫です」
現場に近づくほど場違い感に、
息苦しくなり、堪えかねて告げる。
「そんなこと…」
「あっれぇー??ホタルきゅんの、
マネージャーさんじゃないですか♡
お疲れ様ですぅ、ってことはぁ!!
ホタルきゅん現場にいるんですか?」
背後からの身に覚えのある猫撫で声に、
ぞわわっと鳥肌が立つ…。
「栗田真由さん…お疲れ様です。
我々、急ぎですので失礼します。」
「えーっ、待ってくださいよ。
それ新人?初見なんですけど!!
初めまして♡貴方は名前は?」
グイッと腕を掴まれる…うわぁ、
こんな細い手のどこにこんな握力が?
笑顔を絶やさない彼女にゾッとする。
体育祭の一件を思い出した…。
「申し遅れました、香乃魅月です。
半年振りの音楽活動復帰の話を、
澤田マネージャーとしていたんです…」
口からデマカセ…こんなハッタリが、
よくもスラスラ出てくるものだと、
我ながら驚く…勿論周りも驚いている。
香乃魅月の顔は誰も知らないから。