無名ファイル1

「もう二度と口は利きませんので。」

遅すぎる後悔…本当に馬鹿野郎だ。

少し考えれば分かるはずなのに。

しかし、私は分からなかった…。

シスコンを拗らせすぎたのだから。

なんて間抜けなのだろう。

私は姉の身の安全を案じるあまり、

姉の幸せを願うことを失念していた。

実に阿保だ…私の目こそが盲目で、

筒抜けではないかと…やっと気づいた。

姉を悲しませたら本末転倒だ。

私はそれから自室に籠るようになった。

…というか、出られなかった。

誰よりも私に優しくしてくれた姉に、

嫌われたという事実を認めるのが、

その時の私は何よりも恐ろしかった。

勉強漬けの毎日…勿論学校は合格し、

逃げるようにオーストリアを出た。

あの時の姉のゴミが収集されるのを、

ボーッと眺めるような冷たい視線。

今でも忘れられない…。

「彩音ちゃんと喧嘩でもしたのかい?」

…ニヤリと笑うサドの白々しい声。

日本で二人で生活するようになると、

この男の本性が次々と明らかになる。

その度に私は自分の存在価値が、

どんどん暴落していくのが分かる。

私は彼のマリオネットだった。
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