無名ファイル1

「どうだった?私のライブ。」

生気に溢れた美しい笑顔。

私は勢いよく頭を縦に振った。

姉はあんなに歌って踊っていたのに、

疲れて放心する様子は見せなかった…。

厳密には疲れていても幸せそうだった。

私はその日の夜、眠れなかった。

外に出て凄く疲れていたはずなのに。

それより嬉しかった…姉が幸せそうで。

翌日、髪を結う為に鏡の前に立った時、

姉の姿見鏡の前での出来事を思い出す。

「…」

私にも…効くかな?

姉に話しかけようとすると首の筋肉が、

きゅっと締まる感覚に見舞われる今、

これが成功したら…また昔みたいに…。

「私は…前向きで底抜けに明るい性格。
自分の意思に忠実に生きる、月乃魅香。
今日も1日鮮やかに彩って魅せろ!!」

ただ唱えるだけでは足りないと思い、

頬を包んでいた両手でブッ叩いた。

『スパァンッ!!』

ジィィンッと頬がヒリつく…。

「いったぁ!!!」

こうしてギャルが完成したってわけ。

それで姉と普通に話せるようになった。

なんとも奇妙な話である。

しかし一番奇妙なのはその日から、

悪夢を見るようになったことだろうか。
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