無名ファイル1

母はいわゆる毒親だったように思う。

今となれば一般的な優しい母親だが、

娘を授かることへの強い執念があった。

理由はそりゃ、着付けしがいがあるし、

今もそうだが昔から可愛い女の子が、

大好きだった。俺は別にどんな格好も、

嫌ではなかった。長い髪も紅い着物も、

母が喜ぶなら勝手にすればいいと。

外見なんて当時の俺にとっては、

ただの一部に過ぎなかったからだ。

『ホタルちゃんは可愛いわね、
ずっとママのお姫様でいてね。』

毎日呪文のように言われ続けた。

その時はこれが愛情だと信じていた。

数年後、最愛の妹が産まれた。

妹は小さくて可愛かった。

そう、妹が生まれたその日から、

母の世界の中心は妹となり、

母のお姫様はハナビちゃんになった。

俺はこの瞬間、淡い期待を抱いていた。

母が可愛い着物を着た女の子のような、

”ホタルちゃん”ではなくて、

今度こそ”ケイ”を愛してくれると。

しかし俺に女装をさせることは、

いつまでもやめなかった…。

多分やめる方法が分からなかったのだ。

そんな母への不信感が募る中、

魅香の家のパーティーに参加した。
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