無名ファイル1
「悪いよ、夏夜も疲れてるでしょ」
机の中の教科書をバッグに詰めながら、
先生や麗菜ちゃんの言葉を思い出す…。
そうだよ、この人はアイドルなんだ。
あたしなんかが近づくなんて畏れ多い。
「…余計なこと考えてるな?」
教室を出ようとした時…背後から、
手が伸びてきて扉を押さえつけられた。
「っ…!!」
逃げられないし、出られない…。
「余計って?」
「少し前から…全然目を合わせない。
変だなとは思ってた、何か…あった?」
…麗菜ちゃんとの買い物の日のからだ。
だって…知ってしまったから…。
「夏夜ファンの反感買いたくないもん」
夏夜が息を飲む音が聞こえた。
「俺がアイドルだから避けるのか?」
不安そうな声が鼓膜を揺らす。
「避けてない、なんでそんな顔するの」
夏夜を振り返ったあたしは思わず笑う。
胸がツキツキ痛む切ない顔。
外で雨が降り出した激しい雨音がする。
「夏夜はあたしのお友達でしょう?」
「…そうだったな、もう帰ろう。」
夏夜はそれ以降話さなかった…。
傘の幅のせいで…なんだかいつもより、
遠くに彼が遠くにいるような気がした。