無名ファイル1
「あ!真由ね、体育委員なの。
旧体育倉庫の道具を運ぶように、
先輩に言われて…手伝って?」
保健室の帰り真由さんが手を合わせた。
ジャージの袖は彼女には少し長くて、
つまり萌え袖。そんな細かい可愛げが、
男子人気の理由だ…女子には不評だが。
「いいよ」
あたしはこの時気づくべきだった。
体育祭はもう閉会式を残すのみ。
使用した道具を片付けることはあれど、
持ち出すというのはおかしいと。
そして”旧”体育倉庫だということ。
『ガチャン!!』
気づいた時には背後で施錠された音。
「え…真由さん?」
「…あははっ!こんな罠に嵌るとか!
てか、真由の名前気安く呼ばないで。
ここで反省してなよ、死ぬまで。」
背筋が凍った。
必死に辺りを見回すと上の方に小窓が。
「登る…しかないな」
体に力を入れるたびに包帯に血が滲む。
歯を食いしばって高く積み上げられた、
埃っぽいマットを登る…。
「…んぐっ!!」
最後の力を振り絞り登り切った時、
思わず膝から崩れ落ちた。
「…届かない」
小窓は想像より高い位置にあったのだ。
私はしばらく動けなかった…。