無名ファイル1
『ゴーン…ゴーン…』
「12時…パーティーも終わりですね。」
家の柱時計の音が微かに聞こえる。
「また…会えますか?」
空木から目を離した彼女は、
静かにこちらを振り向いた…。
そこで初めて姉の気持ちに同調した。
「残念ながら会うことはできません…。
今週中には日本を離れる予定なので。」
彼女が息を呑む音が微かに聞こえた。
「…そう、ですか。」
静寂が私達を包む。
「あのっ、魅香様!!これを…。」
彼女はシュルリと簪を外し私に差し出す。
風が吹き、彼女の長い髪を揺らした…。
「ですが…それは貴方の…」
彼女の白く細い指先が微かに震えている。
「では交換にしましょう、私の指輪と。
これはお友達の印です…如何ですか?」
私は彼女の手に指輪を握らせて、
"様"なんて堅苦しいですよと微笑む。
「…ケイちゃんとお呼びしても?」
彼女は一瞬呆気に取られた顔をして、
それからクスクスと笑い始めた。
「勿論です。では…魅香ちゃんと、
お呼びしても宜しいですか?」
「えぇ、勿論。」
『また、いつか逢いましょう。』
私達は月明かりの下、約束を交わした。