無名ファイル1
「………引いた?あれが…女装で。
こんな男が”ケイちゃん”で軽蔑したか?」
やっと重たい口を開いた夏夜。
小さくて…消え入りそうな声だった。
「引かない!性別なんて関係ない!!
ケイちゃんは私の大切な友達だもん!」
あたしは彼の手を包む様に握りしめる。
彼は少し呆気に取られた顔をして、
それからホッとしたように微笑んだ…。
「ありがとう。」
呆気に取られた顔、昔と変わらない。
なんだ、こんなに近くにいたんだね…。
「外は暗いし危ない、家まで送る。」
倉庫を出るとすっかり日が落ちていた。
彼は怪我だらけのあたしを気遣って、
サラッと背負って歩き出す。
「え!?待って、重くない!?」
「重くない、さっきも…言っただろ。
俺は男だし、お前の体重くらい余裕。」
むしろ軽い、飯食ってるのか?なんて。
あたしはデリカシー無いな!!と言って、
彼の頬を軽く引っ張ってやった。
夏夜はあの時の華奢な体型ではない。
小鳥のさえずりのような高い声でもない。
でも私の大切な人で…初恋の人。
あたしは彼の背中に体を預けながら、
優しい想い出と夜風を感じていた…。