無名ファイル1
「失礼いたします」
「随分と騒がしかったですね。
取り敢えずお帰りなさい、魅香。」
昔と変わらず厳しい顔をした母。
鋭い視線…変わらないなぁ。
「ふざけた態度は改めたようですね。
気が違えたかと心配しましたが、
多少は安心しました。月乃家の恥に、
これ以上ならないでくださいね。」
程よく狭く日の当たらない薄暗い部屋。
圧迫感のある壁にそって並ぶ本棚。
「はい、肝に銘じておきます」
気が違えた…という時期はいわゆる、
鏡の前で理想を創っていた時のこと。
あの時は理想の自分を創らないと、
頭痛がひどくて立っていられなかった。
立っていられたのは姉様のおかげ。
あのおまじないのおかげなんだから。
「失礼いたしました」
部屋を出ると心配そうな顔をした姉が、
こちらに駆け寄ってきた。
「御咎めは無し、挨拶も終えました。
今日から一週間滞在予定です。」
淡々と告げると姉はホッとしたように、
微笑んで私の手を引いて歩き出した。
「堅苦しい話し方は止めましょう、
…その、聞きたい事が沢山あるの。」
「…そう、あのね…私も」
私達はぎこちなく笑い合った…。