御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
ついつい聞き流しそうになったけど、何気なく言われた最後の言葉にギョッとなる。

「私の、会社にも迷惑って……?」

「君は今回のパーティーに取材に来ていた文英社の社員だろ? ああいう場でまさか本名をフルネームで名乗るなんて、君って嘘がつけないタイプなんだな」

蓮さんはクスクス笑いながら先ほどから握った私の手を離すことなく、親指の腹で何度も手の甲を撫でている。温かくて優しくて、落ち着いた彼の声を聞いているとなんだか妙にドキドキしてくる。

「文英社の二階堂さんから君のことを聞いていたから、名前も知ってた。会場に来てる人たちとは少し雰囲気が違ったし、すぐに君だとわかった。今思えば、あのモデルの言いがかりもなんだかんだ言って、君に話し掛けるきっかけになったな」

次々と蓮さんから明かされる情報に頭が追いつかず、ぽかんと口を開けて呆然となる。

なんだ、私のこと……最初から知ってたんだ。

「それならそうと言ってくれれば……私、蓮さんはてっきり参加者の方だと思ってました」

蓮さんが今回の取材の許可をしてくれた責任者だと知らず、あのときはずいぶんはしゃいでしまったような……。

「君もパーティーを楽しんでたみたいだったし、俺の素性を明かしてわざわざ水を差すことないだろ? ああ、それともうひとつ、君に謝らなければいけないことがあるんだ」

そう言って蓮さんが椅子の下にあった見覚えのあるドレスを手に取り、私の目の前にパッと広げて見せた。

「これなんだが……」

え、こ、これって……私がパーティーで着てたドレス、だよね?

「階段から落ちたときにドレスの裾の部分が破けてしまったみたいなんだ」

ドレスが破けたことよりも、じゃあ、自分は今なにを着ているのかが気になってガバリと布団をめくって見る。今までドレスのままだと思っていたけれど、自分が着ているのは肌触りのよさそうなシルク生地のガウンだった。
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