御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
「いえいえ! そんな、弁償なんて……どうせ安物だし、それに会場まで着てきた普段着がありますので、気にしないでください」

布団に埋めた顔をあげ、慌てて首を振る。

「いや、俺がそうしたいんだ。な?」

目を細め、ニコリと笑いかけられるとなぜだか言葉に詰まってしまう。労わるような優しい彼の「な?」は首を横に振れない不思議な効果があった。

「あの、どうしてそんなに私のことを気にかけてくれるんですか?」

何気なく尋ねてみると、蓮さんはその質問が意外だったのかクイッと眉を跳ね上げた。

「君のことが可愛いから、って理由じゃだめか?」

かっ、かか可愛い!? これって口説かれてる?

いやいや、きっとこの人にとって私なんか口説くにも値しない……ただの社交辞令だよね。真に受けちゃだめだってば!

蓮さんの甘い言葉にドキドキと胸が波打ち、体温が上がっていくのがわかる。

あーでもないこーでもないと頭の中がぐちゃぐちゃになっていると、蓮さんがスッと椅子から立ち上がった。

「あまり長居していたら疲れるよな、そろそろ失礼するよ。今回の件は本当に申し訳なかった。君の会社にも改めて謝罪を入れておく」

「い、いえ、ほんとに気にしないでください」

蓮さんは最後に微かに笑って病室を後にした。
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