御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
「おはようございます」

「春海ちゃん!」

翌日。

出社すると、一番に絵里さんが心配そうな顔をしながら私に駆け寄ってきた。

「パーティーでのこと、先方から連絡があって聞いたわ。大丈夫?」

「はい。怪我も大したことないみたいなので、仕事にも支障ないですよ」

笑顔を見せると絵里さんはホッと胸をなでおろした。

昨夜。看護師に帰宅したいと伝えたところ、一応入院の手続きをされていたらしく、明日の朝までゆっくりしてはどうか、と言われた。今後、なにかの病気や怪我をしたとしても、もう二度とベリーヒルズビレッジのメディカルセンターに入院することなんてできまい。と少し躊躇したけれど、ここはホテルじゃないし病院なのだとミーハー気分を押し殺して、結局家に帰ることにした。

「それで? パーティーはどうだった? 愛しの王子様は見つかったの?」

心配げな顔からニヤリ顔に変え、絵里さんが「全部本当のことを言いなさい」と私の顔を覗き込んできた。そう言われてすぐに頭の中に浮かんだのは蓮さんのこと。紳士的で丁寧で、優しくてそして誰が見たってイケメンだった。でも、私は肝心な彼のフルネームを聞くのを忘れていたことに気がついて、あぁ、やっぱり両親の言う通り、私はいつも肝心なところで失敗するんだなと肩を落とした。

あのときちゃんと名刺くらい渡しておくべきだった。

病院の治療費だって蓮さんが出してくれたみたいだし、ちゃんとお礼言いたかったのに……はぁ、私のドジ。

なんとかしてまた会えないかなぁ。
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