御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
五十四階に着いて、はたと気づく。

ここは高級フレンチ料理のBisがあるフロアだ。

まさか、食事するって……ここで?

ロビーに目をやると、すでに来ていた蓮さんが私に向かって軽く手をあげた。

「お疲れ、急に呼び出してすまないな」

グレーのスーツをピシッと着こなし、綺麗に磨かれた黒い革靴がピカピカと光っている。彼が近くに歩み寄ると、爽やかな大人のフレグランスの香りが鼻をくすぐった。
もう一度会いたいと思っていた人が目の前にいるだけで信じられない気分だ。スラリとした彼を見あげて思わず惚けてしまう。

「いえ、お誘い頂いて嬉しいです」

ちょうどお腹が空いていたので……なんて言ったら食い意地張ってると思われるかもしれないと、出かかったその言葉を呑み込む。そして、通されたのはそのまさかの本店Bisだった。しかも完全個室のプライベートルームへ。

は、初めてきた……。

どうしよう、口から心臓飛び出そう!

以前、うちの部署でBisの取材をしたことがあったけれど、そのときは違う社員が担当だった。感激しながら取材の感想を嬉々として語るのを、私は人知れず羨ましく思っていた。

Bisはこのベリーヒルズビルディングのメインダイニング的なところで、主に会社の重役たちが会食によく利用している。店内には海外から取り寄せた格調高い気品あるテーブルに椅子が並んでいて、ホールでは数人の来客が上品に食事を楽しんでいた。

「どうぞこちらへ」
< 36 / 123 >

この作品をシェア

pagetop