御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
ウェイターに椅子を引いてもらって座ると、落ち着くどころかその格式のある雰囲気に気圧されてますます緊張が高まる。蓮さんと個室でふたりきりというのもあるけれど。

「あの、どうしてここへ?」

向かいに座る蓮さんに尋ねると、柔らかな笑顔が返ってきた。

「昨日、君があまりにもここの料理を美味しそうに食べていたからな、今度はコースを楽しんでもらおうと思って。もう一度そんな君の顔が見たかったっていうのもあるが」

昨日のパーティーでは、思わず仕事を忘れそうになるくらい料理に夢中になってしまった。あれもこれもと手を出して、今思うとなんだか恥ずかしい。

よく「幸せそうに食べるね」とか言われるけど、食べてるとき自分がどんな顔をしているかなんて考えたこともない。

「取材で来てるってことも忘れそうになるくらいすごく美味しくて……まさか昨日の今日でまたBisの料理が食べられるなんて夢みたいです」

素直に気持ちを伝えると、蓮さんはウェイターがグラスに注いだビンテージ物の赤ワインを揺らしてクスッと笑った。

「ここの総料理長は俺の友人なんだ。きっと今の君の言葉を聞いたら喜ぶ。なんせ、昨日来ていた参加者たちは料理そっちのけでみんな話に夢中になっていたからな」

あぁ、だから料理にがっついていた私が変に目立っちゃったわけね……。
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