御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
蓮さんって気さくでいい人だな、ものすごく雲の上の人なのに……こんなに近くに感じるなんて不思議。

堅苦しくなる雰囲気もなく、緊張で料理も喉に通らないんじゃないかという心配は杞憂だった。物腰柔らかな声音で喋る言葉も所作も丁寧でそつがない。育ちの良さが窺えて、そんな空気を持つ蓮さんだからこそ、リラックスできるんだと思う。

それにものすごく大人の男性って感じだし!

コース料理が次々に運ばれてきて、魚料理も肉料理も絶品だった。そしてほんの少しお腹いっぱいになってきた頃。

「あ、そうだ。いまさらだが……これ」

蓮さんがジャケットの内ポケットから名刺ケースを取り出して、それを手に取る。

――有栖川コーポレーション不動産事業開発営業部統括部長 有栖川蓮

シンプルな白地に会社のロゴマークが描かれていて、綺麗な明朝体で印刷された肩書に何度も視線を滑らせた。

「本当は君が文英社の記者だとわかった時点で渡すべきだったな、挨拶が遅れた」

「いえ、私こそお名刺をお渡しそびれてしまって」

バッグの中から自分の名刺を手渡すと、「ありがとう」と言って受け取ってくれた。

「あの、二階堂編集長から聞きました。有栖川家のこと……お父様がベリーヒルズビレッジの不動産所有者の方で、しかも有栖川コーポレーションの代表取締役だったことも何も知らなくて……改めてすごい家柄の方だったんだなって」

「え、あぁ……」

なんだか蓮さんの歯切れが悪いような気がする。先ほどまで笑顔だったけれど、少し表情が曇ったような?

「君はそれを聞いてどう思った?」
< 39 / 123 >

この作品をシェア

pagetop