御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
じゃあ、階段から落ちる直前に私の名前を呼んでくれたのは……。

ふと、フラッシュバックした中で呼ばれた声がパズルのピースみたいにカチリと音を立てて、綺麗にはまった気がした。

「蓮さん、だったんですね」

どうしよう。なんでこんなにドキドキしてるの?

声の主の正体がわかって嬉しい。それが蓮さんで嬉しい。妙に高鳴る胸を抑えてデザートのマロンソルベを口に運ぶと、優しくて甘い味がいっぱいに広がった――。


Bisのコース料理は素晴らしく美味しかった。残念だけど、そろそろ蓮さんとの楽しいひとときも過ぎようとしている。

「ごちそうさまでした。すごく美味しかったです。あの、総料理長さんにお礼とよろしくお伝えください」

「ああ、伝えておくよ」

会計はどうするのかと気になっていたけれど、蓮さんは店から出るまで一切財布を出さなかった。おそらくツケ払いなのだろう。食事中もほとんどウェイターの出入りもなく、プライベートな空間が保たれていた。この店にとって蓮さんが特別な顧客であるという気配りも感じられた。

「まだ時間ある? 展望台に行ってみないか?」

「展望台……はい!」

元気よく返事をしたのはいいけれど、もう二十一時を回っていて展望台はすでに閉められている時間帯のはず。
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