御曹司とのかりそめ婚約事情～一夜を共にしたら、溺愛が加速しました～

私は二十代～三十代のＯＬをターゲットとしたグルメ、サロン、イベントなどを紹介する雑誌“Ciel”の取材・ライティングを担当している。今まで旅行やオープンしたばかりのお洒落なカフェやレストランの取材はしてきたけれど。

こ、婚活パーティーの取材って……。

「あの、仕事とはいえ……今は男の人と話すのも――」

「責任者の方から一応、ほかのお客さんに取材者だとバレないようにって言われてるから、そこだけ気をつけてね」

あー、そっか、だから潜入取材ってわけね、ってそうじゃない！

婚活パーティーの取材なんて絶対無理！

「えっと、絵里さん話聞いてます？　私じゃなくても――」

「あ、そうそう！　ベリヒルレストランの高級フレンチ“Bis”がケータリングだって言ってたな～」

「えっ!?」

「お、食いついた」

Bisと聞いて思わずスツールから腰が浮く。

Bisと言えば、ベリーヒルズビレッジの五十四階にある超がつく高級フレンチレストラン。予約しても半年待ちのこともあって、ボーナスが出たらいつか行ってみたいと思っていたレストランだ。メディアにも多く取り上げられていて、テレビにも出演するような有名シェフが手掛ける料理は極上の美味だという。行きたくてもなかなか敷居が高くて二の足を踏んでいたレストランでの食事、仕事と言えどかなり魅力的な話だ。

Bisに行けるなら、ベリヒル族の男なんてこの際どうでもいい！

想像するだけでも口の中がじわっとして、ニッと笑う絵里さんと目が合うと我に返る。

「仕事、受けてくれる？」

「はい！　もちろんです！」