御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
有栖川コーポレーションの次期社長、有栖川家の時期当主、きっと蓮さんの周りにいる人はそんなふうにしか彼のことを見てないんだ。そう思うと、胸がキュッと締めつけられる。彼に同情するわけじゃないけれど、私のことを想ってくれるなら……。

すると蓮さんの長い人差し指が私の唇をスッとなぞった。

「春海、君のことが好きだ。今すぐにでも婚姻届を出して結婚したいくらい」

「れ、蓮さ――ッ」

戸惑いつつも口づけを交わされ、身も心も蕩けだす。洋司さんのことで痛い目に遭ったばかりだというのに、“恋”はめげずに再び芽生えるものだとそのとき悟った。

「私も、好きです。蓮さんのこと……」

お互いの気持ちが重なり合うと、彼に抱かれるという戸惑いも自然と押し流された。

私がそう返事をすると、蓮さんはまるで箍が外れたように両腕で力いっぱい抱きしめて、息継ぎをする余裕もないくらいの激しいキスを浴びせてきた。

「……んんっ」

「春海、今ならまだ理性を保てる。嫌なら俺を突き飛ばしてくれ」

私を組み敷いて体重をかけ、もうすでに逃げられる状態じゃないというのに、そんなことを言うなんて、蓮さんはずるい。

「好きな人を突き飛ばすなんてことできません」

ホッとしたように笑むと、蓮さんは鼻先、頬と私に甘いキスの雨を降らせた。そして熱い唇が首筋へ移動して、逸る気持ちを押さえながら私のブラウスのボタンをひとつずつ外していった。

「優しくするから」

ドキリと胸が跳ねると同時に、あ、と心もとない声が出る。

もう引き返せないところまで来てしまった。私の身体を隈なく愛撫しながら蓮さんが耳元で囁く。

「春海を誰にも渡したくない。結婚しよう」と――。
< 62 / 123 >

この作品をシェア

pagetop