御曹司とのかりそめ婚約事情～一夜を共にしたら、溺愛が加速しました～

はぁ、現金だなぁ私って……思わずBisに釣られちゃったけど、でもこれは仕事なんだから。

絵里さんと別れて帰りの電車の中、窓に映る自分の顔の向こうにはベリーヒルズビレッジの灯りがぽつぽつ見えて、そして徐々に離れていく。現実の世界に引き戻される瞬間だ。絵里さんはベリーヒルズビレッジにあるレジデンスエリアの高層高級マンション住んでいて、私はと言うとそこから離れた下界のような郊外に住んでいる。

二階建てで外階段がついている築三十年というおんぼろアパートに着くと、明かりを点けても薄暗い部屋に、はぁ、と重いため息が出る。今年の秋の風は冷たくて、余計に侘しさが増すようだ。

ベリーヒルズビレッジにいる間だけ自分もセレブになった気分になれるけど、現実は違う。

私は新幹線で三時間ほど離れた田園風景広がる地方の出身。父は地元の警察官で、母はスーパーでパートをしている。しかも、夏海、秋海、冬海、せりな、なずな、すずな、と私を筆頭に六人の姉妹がいる大家族だ。夏海と秋海以外はまだ未成年で、なずなとすずなは双子。共働きとはいえ決して裕福でもない。

“あんたはしっかりしてそうに見えて肝心なときに失敗するんだから、気をつけなさいよ”と初めは地元を離れることを反対していた両親もそう言って、最終的には快く許してくれた。だから少しでも親孝行になるならと、給料の半分を無理してでも仕送りしているため、給料がよくても決して贅沢はできないのだ。