御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
「本心ですよ。いきなり結婚とか言われても困るんです」

自分の胸の内とは裏腹に乾いた笑い交じりで言葉を並べ、胸が苦しくなる。

でも、蓮さんのことを一番に考えたら……。

「さようなら!」

こう言うしかなかった。

自分から私と蓮さんを繋ぐ糸を切ってしまった。

涙声になりそうになるのをぐっと堪える。じゃないと蓮さんに矛盾していると悟られてしまう。これ以上、彼の声を聞くのが辛くて私は一方的に電話を切った。

「これで満足ですか?」

自分でもびっくりするほどの暗い声で俯きながら呟く。

「はい。しっかり見届けましたので充分でございます。お辛かったでしょう……」

私とは違い、緒方さんはホッとしたような穏やかな声音だった。それが余計に嫌味に聞こえて怒りさえ覚える。

お辛かったでしょう、ですって? そんなの、決まってるじゃない!

そういうふうに言えって言ったのは緒方さんじゃない!

グッと拳を膝の上で握りしめ、ようやく溢れてきた涙を拭う。泣いてるなんて思われてもいい、できることなら今すぐにでも大声で泣き叫びたいくらいだ。

「すみません、少しひとりにしてくれませんか?」
< 92 / 123 >

この作品をシェア

pagetop