御曹司とのかりそめ婚約事情～一夜を共にしたら、溺愛が加速しました～

この建物は昔、有栖川家に仕えていた従業員の寮だという。すでに新しい寮が建てられ、ここはもうすぐ取り壊される予定になっている。

まるでお化け屋敷みたいね……。

あらかじめ私をここへ連れてくることになっていたのか、１Kの部屋は綺麗に掃除されていた。電気も新しく取り換えてある。なにもかも緒方さんの計画通りに進んでいるのが癪に障る。

「高杉様のお勤め先への送り迎えは有栖川の者がお世話いたします。とにかく今後、蓮様に接触されないように、くれぐれもよろしくお願いいたします」

恭しく頭を下げるけれど、私のスマホに登録してあった蓮さんの連絡先も緒方さんの前で消去させられた。そして、万が一向こうから電話がかかってきたときのため、着信拒否の設定までさせられた。

「わかりました」

緒方さんは、そつがない。

正直悔しくてたまらなかった。けど、私がここで反抗すれば蓮さんに迷惑がかかるかもしれない、そう思うと情けないけど何もできない。

「あの、すみませんが先ほどの書類、もう必要ないですよね？　もらうことってできますか？」