御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
蓮さんから電話がかかって来る前、私の身辺について事細かく調査された書類のことでどうしても引っかかることがあった。いつまでも喉につかえた魚の骨みたいで不快だ。

「ええ、こちらにもコピーがありますのでどうぞ、差し上げます」

A4サイズの茶封筒を受け取ると、突然クラッと目眩がした。

「高杉様? いかがされましたか?」

「い、いえ、大丈夫です」

まだこの状況が飲み込めなくて、身も心も参っているのだろう。なんだか胃がムカムカとして正直、立っているのも辛い。

「お体の具合がすぐれませんか? 今すぐ――」

「いいんです。大丈夫ですから、そんなことより早くひとりにしてください」

頭を下げたまま訴えかけるように言うと、緒方さんは心配そうな表情を残して部屋を後にした。

今の目眩、なんだったの……?

きっと身体が疲れてるんだ。

でも、やっと一人になれた。

そう思うと、どっと切なさがこみあげてきてじわりとまた涙が出てきた。これから確認したいことがあるのに、涙でなにも見えない。
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