御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
翌日。

『はっ!? 結婚がだめになった?』

先日、ウキウキしながら電話で婚約の報告を母にしたばかりだというのに、今度は破談のお知らせをしなければならなくなった。なんとか黙ってやり過ごそうとしたけれど、せっかちな性分の両親が『式はいつなのか?』『顔合わせは?』と矢継ぎ早に尋ねてきたため、誤魔化しきれなくなってしまったのだ。それに嘘をついているという後ろめたさもあったし、正直に言おうと破談になったことを伝えた。

『も~あんたのことやから、また呆れられてしまったと違う? お父さんなんて、新しい礼服新調せなぁ、なんて言ってたところやったのに』

「う、うん。ごめんね、ほんと……私、まだ当分結婚とかいいわ」

『そういうこと言うてると、行き遅れるって、まだ若いつもりかもしれんけど――』

母の小言も今はじっと耐える。期待させてしまった両親へのせめてもの償いだ。

しばらく母の愚痴を聞いて、ようやく電話を切った。

はぁ、家族に悪い事しちゃったな……。

心配してるんだろうなぁ。

本当なら、今日私は蓮さんと入籍をする予定だった。役所の職員に「おめでとうございます」なんて言われて、はにかみながら微笑み合っている頃だったかもしれない。

いきなり連絡も取れなくなって蓮さん、どうしてるだろ……怒ってるかな。

もう彼に連絡を取ることはできない。会うことさえも。

スマホをバッグに入れ、窓の外を見ると秋晴れの青く澄み渡った空が広がっていた。

私の気持ちもこのくらい晴れてくれたらいいのに。
< 98 / 123 >

この作品をシェア

pagetop