翳踏み【完】
その声で呼ばれたら、私は俯いていた視線を彼に向けたくて仕方がなくなる。抗うように小さく「何ですか」と呟いた。それだけですきがいっぱいになる。
なんですきになってしまったんだろう。
依然顔をあげられない私の視界に、彼の大きな靴が入り込んでくる。驚いて足を引こうとしたら、左手首を掴まれた。もう、ペースは彼のものになっている。あ、と声をあげる間もなく俯いていた視界に彼の匂いが広がった。
愛すように下唇をあまく齧られて、へたり込みそうになったところを抱き止められた。そんな愛し方を私は知らない。
いつだって翻弄されて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
夏の暑い日に、こんなに近くにいる理由が見つからない。見つからないのに、離れ方も分からないから、されるがままになった。どうしてキスするのなんて聞けない。
きっとうまくすきを吐かされて、この関係は終わってしまうだろうから。
濃厚な彼の匂いにくらくらと眩暈がして、触れる唇が指先を痺れさせた。私の体は毒に侵されているみたいに不自由で、ただ彼のシャツにしがみ付いた。
「俯かれると、こっち振り向かせたくなる」
ほとんど意識を保っていられないくらいに長い拘束から解放されて、彼の腕の中で耳元に誑かされる。もう一生彼の前で俯いたりできないと思わせるのに覿面の言葉だった。
なんですきになってしまったんだろう。
依然顔をあげられない私の視界に、彼の大きな靴が入り込んでくる。驚いて足を引こうとしたら、左手首を掴まれた。もう、ペースは彼のものになっている。あ、と声をあげる間もなく俯いていた視界に彼の匂いが広がった。
愛すように下唇をあまく齧られて、へたり込みそうになったところを抱き止められた。そんな愛し方を私は知らない。
いつだって翻弄されて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
夏の暑い日に、こんなに近くにいる理由が見つからない。見つからないのに、離れ方も分からないから、されるがままになった。どうしてキスするのなんて聞けない。
きっとうまくすきを吐かされて、この関係は終わってしまうだろうから。
濃厚な彼の匂いにくらくらと眩暈がして、触れる唇が指先を痺れさせた。私の体は毒に侵されているみたいに不自由で、ただ彼のシャツにしがみ付いた。
「俯かれると、こっち振り向かせたくなる」
ほとんど意識を保っていられないくらいに長い拘束から解放されて、彼の腕の中で耳元に誑かされる。もう一生彼の前で俯いたりできないと思わせるのに覿面の言葉だった。