翳踏み【完】
走っている最中にチャイムが鳴ったのを聞いた。朝のショートホームルームが始まったころだとわかってはいても、戻る気にはなれなかった。
なるべく波風を立てないように生活してきたはずなのに、結局全部が壊れた。全部が壊れる覚悟で先輩の横顔を見ていたはずなのに、いざ壊れてみたら、苦しくて泣きそうだ。
歪む視界を腕で擦って、すぐ目の前に迫った美術準備室の鍵を開ける。そうして中に入ってすぐに鍵を回した。
こうなることくらいちゃんと理解していた。それなのに、今こうしてどうしようもなく恐怖に震えている指先がおかしい。
体が心臓になってしまったみたいに全身がどきどきとうるさくて、今にも足はバランスを崩してしまいそうだった。
今まで必死に合わせてきた何かは呆気なく壊れた。自分だってうわべだけの付き合いをしていたのだから当たり前なのに、ああして冷たく当たられると、どうしようにもくじけそうになる自分が嫌いだ。
先輩のことだって、私の事なんてちっとも好きじゃないと知っていたのに、いつまでも一緒に居たくて、知らないふりをしていた私は本当に最低だった。