翳踏み【完】
最低だから、きっと罰が当たったんだろう。考えれば考えるほどに唇から渇いた笑い声が出た。それは次第に大きな何かになって、夏の湿気みたいに、じめじめした涙声になる。こんな、誰にも見つけてもらえなさそうなところで、一人で泣いている自分は、本当に惨めだ。

クラスでは居場所を失って、先輩には捨てられる。そうして、私には何が残るのだろう。ただ、先輩がすきだという気持ちだけを強烈に残して、私はどうやって息をしていくのだろう。


先輩に会いたい。先輩に会って、全部うそだと思い込みたい。いつも通り、少しイタズラに笑って、私を唆してほしい。そうしたら、私は今すぐにすべてを忘れて、先輩だけを、信じられるのに。

ぐずぐずと泣きながら、携帯を握りしめる。先輩から連絡が来たらいいのになんて、ありえないことを念じた。こい、こい、と一人呟いて、携帯が鳴る。


ディスプレイには、“更科夏希から着信”の文字が光っていた。


「もし、もし」


網膜にその名前が刻まれた途端に、思考回路とは関係なく、勝手に体が動いた。ついさっき泣いたばかりなのがばれてしまいそうだと思ったのは声を発してからで、先輩が「菜月?」と呟いたのを聞いたら、もう死んでもいい気がした。


「はい……」


先輩と電話をするのはこれが初めてだった。
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