翳踏み【完】
なんでとか、どうしてとか、何も言葉にならなくなった。二人は当たり前のようにバイクを駐輪場に止めて、隣を歩いている。まるで私なんて見えていない。
私なんて気付いていないみたいだった。
女の子を後ろに乗せたことがないなんて、嘘だ。それか、もしかしたら、その女の子こそが本当に好きな人なのだろうか。
私を乗せたいと言ったのは、いつだっただろう。もう途方もないくらいに昔のように思える。
私のこころをこなごなにするにはじゅうぶんすぎた。一日ベッドの中で必死にシミュレーションした全てがぱらぱらと崩れて、呆気なく消える。
「夏希せんぱいっ」
それでも信じられなくて、こなごなのこころで、先輩を呼んだ。きっと、気付かなかっただけだと悪あがきして、今まで出したこともないような声で叫んだ。その声に、先輩と、横にいる女の人が足を止める。そのまま振り返って、同時に私を見た。
先輩と同じく綺麗な顔をした女の子が心底不思議そうにこちらを見ながら、先輩の耳に何かを囁いた。
ただそれだけで胸の奥をナイフでめちゃくちゃに刺されているみたいに吐き気がする。いやだ、いやだ、と呟きたがる唇を隠して、次の先輩の言葉に、とどめを刺された。
「さあ? 知らね」
その瞬間、たぶん私の心は、息の根を止めたのだと思う。私の瞳からすぐに顔を反らした先輩の横顔がぐにゃりと歪んだ。涙なのかもしれないと思ったけれど、拭う気力もない。次に瞬きをしたとき、私の意識はぷつりと途切れた。