翳踏み【完】
授業をさぼったことなんてなかったから、妙な気分だった。一方楽間くんはいつも通りの制服姿のまま、なぜかバスケットボールを持っている。当たり前のようにこの場にいる彼は私とはあまりにも違い過ぎて、眩しいと思ってしまうくらいだった。

ぼんやりとボールを見つめていれば、突然それが飛んでくる。慌ててキャッチしようとすれば、当然のように失敗して、地面にバウンドした。


「鈍くせぇ」


笑った楽間くんがバウンドするボールを捕まえて、私の方をもう一度見る。その瞳に、声をあげようとして、楽間くんと言葉が被った。


「俺に借りあんだろ。ついてこいよ」


特に断る理由もなく、だるそうに歩く楽間くんのあとをついて歩く。迷いなく歩く楽間くんに「どこいくの」と問う間に突然歩みを止めた背中にぶつかった。


「お前クソ鈍いな」


ケラケラと笑われて、鼻を擦りながら同じように笑ってしまった。言われた通りだ。吹き出すように笑ったら、楽間くんが目を瞠ってから、私の頭に触れた。乱暴なそれは、撫でると言うよりも乱すような手つきだ。


「鈍感クソ女」

「運動神経が良くないだけだよ……。たぶん」

「それだけでここまで拗れるかよ」

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