翳踏み【完】
楽間くんの指摘に特に何も言えずにいれば「ここ入って」と指示された。歩き続けて辿り着いたのは、本来私たちが行くべきだった体育館の横に設置されている倉庫だった。

体育倉庫になっているそこは、当たり前のように体育で使う用具で溢れていた。特に縁のないところだから、勝手がわからない。恐れるように踏み込んで、後ろにいる楽間くんが内鍵をかけた音を聞いた。


「えっ」

「バレたら面倒だろ」


それが誰にバレたら面倒だと言っているのかは良くわからない。良くわからないけれど断れる雰囲気でもない。抵抗を諦めて立ち尽くしていれば、そこ座れば? と平均台の上を指された。


「あの、楽間くん、ほっぺた……、ごめんね」

「別に謝ることじゃねえだろ、多分手加減されてただろうし。もう治った」


あっさりと言葉が返ってくる。どうすることもできずにもう一度「ごめん」と言えば、「それより、」と言葉を切られた。言いたいことはわかる。


「何でまた拗れてんだよ」


心底面倒そうな言葉に、何を言えばいいのかわからない。楽間くんは先輩が私を好きだと思っているけれど実際はそうじゃないんだ、と言えばいいのだろうか。

それなら今日までのあれは何だろう。

先輩は私を捨てるんだと思っていた。それなのにそうはならなかったこの現状を、私ですら、もてあましている。ただ一つ分かるのは、私の行動がひどく先輩を傷つけたということだ。

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