翳踏み【完】
「先輩と一緒に、お昼ご飯を食べたい、です」
私が呟いたら、先輩の手が、少しだけ強く私の指先を握り直した気がした。
緩く笑った先輩が「いいよ」と呟いた。それだけで心臓が可笑しくなりそうだ。横を覗き込めば、ここ最近では見なかったような照れた顔をする先輩がいる。
ああ、良かったなんて思う私は単純で、きっと、どんな先輩でも、私は恋に落ちてしまうのだろうと思った。
午前の最終授業が終わって席を立った。いつもより5分ほどはやく終わったから、いつもみたいに先輩を待つんじゃなくて、迎えに行こうと思った。
朝の彼の表情を思い返して拳を握った。おそれてばかりで好かれようとする努力を損なってはいけない。伝える努力を怠ってはいけない。
母が教えてくれたように、できない自分に勝手に傷ついて、こんな私じゃダメだとか、到底似合わないのだと思い込んで自分の本当の気持ちを言わずにいてはいけない。
それはただ、現実と向き合うのが怖くて逃げだしているだけだ。先輩はいつだって真っ直ぐに私を見つめていた。
信じなくていいよって言いながら、何も言えずにいる私を見るたびに苦しそうな瞳で私を見つめていた。それじゃあだめなんだ。