翳踏み【完】
少し一人になりたい。少し落ち着きたい。ちらりと見えた先輩の後ろにいたその人は、いつかの日に見た女の人だった。当たり前に先輩のバイクの後ろに座っていたその人だ。
忘れかけていた自分が可笑しい。先輩があまりにも私の傍にいてくれるから、全部が頭から抜け落ちていた。
どう考えても先輩の大事な人だ。私は浮かれていた。まるで先輩が自分を思ってくれているなんて思い込んでいた。ばかみたいだ。惨めだ。傷つけたなんて思うのもおこがましい。
混雑する校内から走って抜け出して、よくわからないままに道を進んだ。ぼんやりと映る視界の先に体育倉庫があるのを見た。特に意味も持たずにそのドアを開けて、中でパンを食べている人と目が合う。
「は? 椎名?」
心底驚いたような瞳だった。楽間くんは片手に持っていた携帯をぼろりと落として、こちらを見ている。
誰もいないと思っていた私も、自分の目から地面に降下して行くそれを何と言い訳していいのかわからなかった。誰にも会いたくないのだ。くるりとドアの方に向き直って一歩を踏み出そうとすれば、右手首を掴まれた。
「待てよ」
「放して」
「断る」
少し苛立ったようなトーンだった。優しくしないでほしい。今は何を言われても泣き出してしまいそうだった。楽間くんの言葉を聞きたくなくて、話さなくていい言葉が口を突いて出る。
忘れかけていた自分が可笑しい。先輩があまりにも私の傍にいてくれるから、全部が頭から抜け落ちていた。
どう考えても先輩の大事な人だ。私は浮かれていた。まるで先輩が自分を思ってくれているなんて思い込んでいた。ばかみたいだ。惨めだ。傷つけたなんて思うのもおこがましい。
混雑する校内から走って抜け出して、よくわからないままに道を進んだ。ぼんやりと映る視界の先に体育倉庫があるのを見た。特に意味も持たずにそのドアを開けて、中でパンを食べている人と目が合う。
「は? 椎名?」
心底驚いたような瞳だった。楽間くんは片手に持っていた携帯をぼろりと落として、こちらを見ている。
誰もいないと思っていた私も、自分の目から地面に降下して行くそれを何と言い訳していいのかわからなかった。誰にも会いたくないのだ。くるりとドアの方に向き直って一歩を踏み出そうとすれば、右手首を掴まれた。
「待てよ」
「放して」
「断る」
少し苛立ったようなトーンだった。優しくしないでほしい。今は何を言われても泣き出してしまいそうだった。楽間くんの言葉を聞きたくなくて、話さなくていい言葉が口を突いて出る。