翳踏み【完】
「伝えようと思ったの、先輩に、自分の事、言おうと思ったの」

「先輩がまえに、食べたいって言ってくれたから、お弁当まで作って」

「ずっとすきでしたって、信じられなくてごめんなさいって、言おうと、思って」


泣きたくなくて声をあげているのに、可笑しいくらいに喉が熱くなってくる。悲しい気持ちがこみ上げるみたいに痛くて、もう一度頬に涙が流れたら、誰かの腕が、私の体を抱きしめた。

ただそれだけで、先輩じゃないと思う自分が嫌いだ。

伝える勇気もないくせに、先輩が好きで好きで勝手に傷ついている自分がたまらなく嫌だ。


「そんなに傷つくならやめれば」


重々しい言葉が耳に落ちる。言われる通りだ。先輩があの人を大切に思っているのなら、私の想いはどこまでも不毛だ。大切にされているなんて思い上がりも良いところだ。

先輩よりももっと安心して、もっと穏やかに好きでいられる人がいると思う。


「らくま、くん」

「泣くとこが見たくて、引いたわけじゃねえ」


きっと、もっとずっと大切にしてくれて、笑わせてくれて、ずっと一緒に居られる人がいる。

楽間くんの手に体を向きなおされて、視線が絡む。とても真剣な瞳だった。何も言えないままに、睫に凭れている涙が、頬を滑る。楽間くんの指先が、その頬に触れようとしているのを見た。


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