翳踏み【完】
「楽間くんは、関係ない、です」

「へえ? 関係ないからアイツには何もするなって?」


にじり寄る先輩に、言葉が続かない。どうしてそんなに冷たい声を出すのだろう。伝染するように心が冷える。泣きたい瞳で見つめたら、先輩の眼も、泣きそうに見えた。


「好きなやつのこと庇って、俺と一緒にいんの? ほんと優しいなお前」

「――優しすぎて、残酷だわ」


笑った先輩の瞳が冷たい。何を言えばいいのかわからずに一歩後退すれば、当たり前に壁にぶつかる。

それでも止まらずに距離を詰められて、足の力が抜けた。崩れ落ちる私を囲むように壁に手をついた先輩が「全部壊してやりてえ」と囁いた。


「まっ……」


どこまでも冷たい。


「お前の気持ちよくわかるわ。確かに相手が何の気もないくせにそれらしいことして来たら、狂いそうだな。そういう計算?」


責められているのはこちらなのに、先輩の瞳を見ると何も言えなくなる。黙っていればまた嘲笑する瞳とぶつかる。


「何も言わねえの? 図星で言葉にならないってか?」

「そ、」

「俺が今日、馬鹿みてえに浮かれてんの見て、笑ってんだ? 好きでもない男が必死に自分の事追いかけてんの見て、笑ってんのか。マジで笑えるわ。そうだとしても、菜月が手放せなくて」

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