翳踏み【完】
泣いてもやめないなんて嘘だ。

視線が合ったら、どうしようもなく悲しい目だった。そんなふうにさせているのが自分だと思うと遣る瀬無い。

ただ好きなだけだ。

逃げて、隠れて、臆病すぎて何も言えずに来た。先輩が私の髪を撫でる。泣かないで、と、言われているような気がした。そういう優しさに、恋に落ちたんだ。


「せんぱい、が、すきで、す、」


嗚咽のような告白だった。俯いたままに告げたそれはあまりにも小さすぎて、誰にも届かない気がする。それでも先輩がため息を吐くから、伝わったのだと視線をあげた。


「同情?」


まるで信じていないような言葉にまた涙が出た。せいいっぱいの告白だった。これ以上のやり方がわからない。ただ、その瞳を見て、言葉を失う。自嘲する先輩に、今更に気付いた。

信じてもらえないということが、どれだけしんどいのか。


「あんまり可哀想で、憐れになった?」

「ち、ちがいます、すき、なんです」


おもわず先輩の腕を握った。どうやったら信じてくれるのだろう。わからなくて、途方に暮れそうになる。

すきです、ともう一度呟いて、先輩の眼を見た。傷ついた子どもみたいな瞳だ。自分がそうさせてしまったのだと思うと、どうしようもなく悲しい。


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