翳踏み【完】
触れた唇を離して、今にも震えそうな唇で呟いた。


「黙っていたら、また勝手にキスしますよ、いいんですか」


先輩がしてくれるみたいに、頭の裏に指先を差し込んだ。いつものように白く光っている髪を撫ぜて、「なつきせんぱい」と呼んだ。


「どうやったら、ぜんぶ、伝わりますか」


ぽろりと睫から零れ落ちた涙に笑いたくなる。小さく微笑んでもう一度「好きです」と言った。もう、これ以外に言いたい言葉がない。言葉にならない。


もう一度、呟こうとして、先輩の瞳からダイヤモンドみたいな滴が落ちたのを見た。


「せんぱ」

「見んな」


思わず乗り出した体を押さえるように瞼を塞がれる。その指先が燃えそうに熱い。なぜかそれだけで心臓が鼓動した。


「こっち、見ないで」


もう一度確認するように囁かれた。その言葉の真剣さに頷いて、私の手を覆っている先輩の手を握った。


「せんぱい、傷つけましたか」

「せんぱい」

「せんぱい、ごめんなさい、嫌でしたか」

「もし、嫌でも……、せんぱいがすきなことを、やめたくないです」

「どうしたら、いいですか」


< 75 / 77 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop