翳踏み【完】
「もう、黙れって」
心底困った様な声だった。一つ息を殺される。
私が黙り込んだ瞬間に、先輩が動く気配がした。片手で私の瞳を覆ったまま、確かめるみたい抱きしめられた。すきだと思った。
先輩だから、こんなにも猛烈に好きなんだと自覚した。
「すきです」
「ああ」
「大好きです」
「うん」
「どうしよう、舞い上がってます」
「ばかだな」
「ばかでも、いいです。せんぱいの気を引きたい」
「おまえ、ほんと、かわいすぎてばかだわ」
耳元に吐くように囁かれて、今度こそ鼓動が止まった。息の根を止められて、先輩の指先に、涙が落ちた。泣いてばかりだ。先輩の前で、私は心が動くことを止められない。
「もうずっと、お前が俺に気付く前から、振り回されてるんだよ」
「うそみたいです。ぜんぜん、ぜんぜんそんなふうに思ってくれている自信がないです。でも、馬鹿でもいいから、信じたいです。信じていいですか」
「お前が思う以上に惚れてるよ。すきだ、もう頭可笑しいんじゃねえかと思うくらい狂ってる」
「う、うぅ、もう、胸が痛いです」
「あれ、妹だから。何でもない」
「いも、うと……」
「お前以外見えないよ。どうしようもなく小せえ男だから、楽間と笑ってんの見るだけでイラつくし、今すぐ俺だけのものにしてえし、どっか閉じ込めて置いてやりたいけど、それと同じくらい優しくしてやりたいし、自由に笑ってるとこ見ててえし、菜月見てると、訳が分からなくなるくらい、好きだ」