可憐な花には毒がある
毒と花
「萠音のモネってさ、あの花からつけたんだろ」
「どの花?」
「ほら。モネフィラ、みたいな」
「もしかしてネモフィラのこと?」
「そう、ネモフィラ」
「ちがうよ。クロードモネから」
「そっちか」
モネの『睡蓮』が好きなお母さんの希望、
だったらしい。
こんな言い方をするのは、お母さんはわたしを産んですぐ死んじゃったから。
だから、名前の由来はお父さんから聞いた。
自分の名前は好きだったけど、上には上がある。
というのも。
わたし以上にこの名前を気に入ってる人がいた。
それが時雨という男。
時雨はわたしの名前を異様に好んでいて、なにかにつけて呼んでくれていた。
だからこのタイミングでその会話を思い出してしまったのかもしれない。
むこうはそんな何気ない会話、とっくの昔に忘れてるだろうけど。
「萠音」
ふらふらと通りかかったひとけのない教室で、わたしを呼ぶその声はやけに優しく聞こえた。
「……時雨」
開けっぱなしのドアの向こう。
応えるように笑みをつくった人物────時雨は、わたしの元恋人だった。
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