可憐な花には毒がある
教室には彼ひとりだけだった。
あの人の姿が見あたらない。
「ひさしぶり。会いたかった」
ダウト。
時雨の言葉に、心のなかでつぶやいた。
嘘をつくとき、人は視線を逸らしたり泳がせたりすることが多いけど。
この男は真逆だった。
嘘を信じ込ませるように、瞳にすり込むように。
じっと相手の目を見つめてくる。
わたしが気づいたのは偶然だし、たぶん時雨だって無意識なんだろう。
かなりタチの悪い癖だった。
「……彼女。今日は連れてないんだね」
「いや、連れてるけど」
「えっ?」
きょろきょろすると呆れたように笑われた。
「ばーか、ここにはいねーよ。授業でわからなかったとこ、先生に聞きに行くんだってさ」