彼が冷たかった理由。
ムスッとした顔をする彼にため息が出そうなのを抑える。

「渉が寝なきゃいい話じゃん」

ペちん、と頬を両手で挟む。
それでも彼の顔は不機嫌。

「次からはちゃんと渉のこと呼ぶから拗ねないの。
ほら、授業始まるから座るよ」

ごめんね田中君、と謝って、渉の腕を引く。
わがままな子供のようだった。

「もし俺が毎日頑張ったら、ずっと俺のことだけ見ててくれる?」

「...あ、当たり前じゃん」

「なら、がんばる」

そう言って始まった三時間目の世界史の授業。
今日の授業は特に面白いところだ。

「お前ら、十字軍覚えてるか〜?」

十字軍。
それは私が世界で最初の戦争だと勝手に思い込んでいるものだ。

最も古い戦争らしい戦争といえば、十字軍の遠征だろう?


ふと隣でなにか揺れ動くのが視界に入り、顔を向ける。

渉が、かくん、かくんと頭を揺らしているところだった。


「...ふふ」

笑っちゃう。
かくん、かくん、がくんっ。
がくんっ、てなって、はっ、て起きて、キョロキョロ辺りを見る。


そんなところでチャイムが鳴り、やっと渉は目を覚ました。
号令が終わって昼休みに入ると、彼はまた、眠ってしまった。

寝てばーっかり。

ふふ、と笑いそうになるのをこらえて黒板を消す。


「優愛ー、俺も手伝うよ」

「あ、琉君。ありがとう」

彼は秋元琉稀(あきもとりゅうき)くん。
苗字が同じだから、互いに下の名前だ。
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