好きになった先生は猫かぶりで腹黒な先輩だった
危ない、声を出して笑うところだった。
ミナト先輩も後ろで笑った。



目をつむりフッと短く息を吐いてから舞台に足を踏み入れる。
スポットライトで照らされる。



客席に座る先生方に一礼。
演奏会なら拍手が返ってくる。
試験で返ってくるのは重たい沈黙。



見慣れた楽譜を広げて、チューニングを済ませてまた目をつむって短く息を吐いた。



まだ震えない手をグーパーしてキーに指を置く。



『準備できました』って意味を込めて振り返ってミナト先輩に微笑みかける。
答えるようにミナト先輩も口角を上げた。



最初の1音を奏でた瞬間から震えだす指。
ますぐ立ってないような感覚に陥る。
この瞬間だけがイヤだ。



演奏しながら第三者みたいな自分が出てきて自分と会話する瞬間。
その瞬間が楽しい。


音楽をやっててよかったって思える瞬間。



そして



『目指すもの』を叶える瞬間。
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