大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
それを敏正さんに話したら、子爵家の令嬢のくせにと大笑いされたのだけど。私は自由気ままに見て回るほうがやっぱり好きだ。


「旦那さまのシャツでございますね。こちらでございます」


奥から出してもらった真っ白なシャツは、さすが品質がいい。

この店は、津田紡績が取引している峰岸織物の作った布を加工している。

峰岸織物は私の花嫁衣裳のような和服専門だからだ。


「ありがとうございます」

「奥さまもなにかいかがですか?」

「い、いえっ。これから少し用がありまして、これで失礼いたします」


危うくつかまりそうになり、冷や汗をかきながら脱出した。

こんな話をしたら、また敏正さんに笑われそうだわ。

ことあるごとに彼を思い浮かべる自分が浮き立っているとわかっている。
けれども、今の生活がこの上なく幸せなのだ。


それから銀座に移動して、店先を覗きながらぶらぶら歩き始めた。

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